SAI建築社が提案する
暮らしと住まいの新しいサイクル
と題して定期的にお届けしている
WEBマガジン「SAIKURU」
2023年4月よりWEBマガジンとして
リニューアルいたしました。
自然を感じるデイサービス施設
木の温もりを訪れる利用者へ。
Case 179
【宮崎県・日南市】2023年7月 移転・リニューアル
海が近く、山も近い。風光明媚な自然が残る宮崎県・日南市。7月、そんな日南の街に新たにデイサービス施設が誕生しました。この「茶の実」は元々、同市内で13年にわたって営業している施設です。事業を継続する中、これから先の未来に向け、施設のあり方を考える中で、移設、リニューアルを図ることになりました。今回は取材対応を担当する山口さんにその経緯をうかがいます。
シンプルではあるが、印象に残る。
だからお願いしたかった。
——移設のきっかけをおしえていただけますか。
この「茶の実」は元々、私の母が開業した施設なんです。その頃は大きな事業所にしたいという構想もなかったため、実家の横にあった民家を改装、増築し、施設として活用していました。
おかげさまでこの「茶の実」の利用者が年々増えていき、10人を超えた時点で、建物が手狭になってしまったんですよ。
母自身もそろそろ高齢になってきましたし、利用者も増えてきたということもあり、私もこの「茶の実」の運営をサポートすることになりました。
——元々の建物をさらに増築するというプランもあったのでしょうか。
私たちの想いとしては、できれば将来的に1日あたり30人の利用者を受け入れられる規模にしたいと考えていました。そのためには、さすがに以前の建物を広くするには限界があって。そこで土地探しを始めたんです。
最初は実家のすぐ下に手付かずの畑があったので、そちらはどうかなと検討したんですが、元々が畑ということで土地の用途変更に苦労しそうで。通りから畑へ入る際の道も狭くてクレーン車やダンプカーといった工事車両が侵入しにくそうだったんです。結局のところ、ちょっと難しいだろうという判断になりました。
最終的に私の母校だった小学校の一角を市のほうから購入させていただけることになり、現在の土地に落ち着いたんです。
——日南市の幹線道路にあたる通り沿いで、アクセスが良いですね。
そうなんです。結果として利用者の方々においては通いやすい立地で、施設のロケーション的にも視界が開けていて、気持ちが良いですね。周囲が住宅地というわけでもなく、街中という立地でもない環境のため、1日を通してゆっくりした時間が流れています。
——SAI建築社とは昔からご縁があったとお聞きしました。
2008年になりますが、私自身がSAIさんで自宅を建てまして。SAIさんはその当時からデザインがとても素敵で、シンプルなんですけど、印象に残る。パッと目を引く。そんなインパクトがありました。そこに惹かれ、SAIさんに決めた経緯があります。それで今回の「茶の実」の移設・リニューアルについてもSAIさん一択でした。
木を生かしたい。
だからCLTを選んだ。
——建物のベースにはCLTセルユニットを選ばれています。
木の温もりがあるし、ご高齢の利用者が必然的に多くなるデイサービス施設にはぴったりだと思ったんです。施設に入った瞬間、木の香りがするような、そんな心から落ち着ける場所になるだろうと期待し、CLTで進めてもらうようにお願いしました。
——最終的に6つのセルユニットを使った建物になっていますね。
当初の「木を生かす」というコンセプトに加え、ゆとりのある空間に仕上げたいという思いがありました。できれば鉄骨は入れず、木材だけで空間を創出したかったので、6つのセルユニットの設置幅を設計担当の三池さんと相談しながら、間取りを検証していったんです。
30人の利用者が受け入れられるよう、中央のフリースペースは100平米を確保し、その上でトイレを3つ、ユニットバスを2つ設置しています。
こちらが希望した要素が全て盛り込めたので、大満足ですよ。
おかげさまで移転後の利用者は以前の建物の限界だった10人から16人前後へと増加しましたが、トイレ、ユニットバスともに余裕を持って稼働できています。
——CLTセルユニットのメリットは他にもありましたか。
木を生かすことができたほかには、事前には聞いていましたが、着工から完成までが本当にスピーディでしたね。2月中旬に地鎮祭をし、そこから間取りを徹底的に詰めていったんです。
同時に基礎づくりも進めていき、5月に入ってから実際にセルユニットの配置が始まったんですが、6月末には完成しましたから。実質、工事期間自体は1か月半くらいでしょうか。あまりの速さに感激しましたよ。
——工事自体は短期間ですが、“中身”は詰まっていますね。
打ち合わせをしっかり重ねられたので、素材選びなど、私たちの思いを空間に散りばめさせることができました。
例えば木は全面に打ち出してはいますが、全てに無垢材を使うということではなく、床部分は傷が付きにくい材質のものを取り入れるなど、メリハリをつけながら、施設の機能面についてもしっかり内容が伴ったものになっています。
——利用者の方々の反応はいかがですか。
みなさんに大変喜んでいただいていますよ。第一に全体的な空間が以前よりもぐんと広がったため、人同士の物理的な距離感による圧迫感が軽減されました。
一方で、一人ひとりが自由に動きやすくなったため、ご自身のペースでこの施設と交流できるようになったと思っています。
トイレ、食事など、ちょっとした待ち時間ができた時にも、以前なら椅子にそのまま座っているというくらいしか選択肢がありませんでしたが、今はちょっとフロアを歩こうか、テレビでも見ようか、ソファに座ってくつろごうか、といったように、自由に過ごしていただけます。
「広いから、ちょっと歩こうかなという気になるね」というお声も実際にいただいていますし、そういう意味でこの場所に笑顔が増えたように感じます。中央のスペースはテレビを見る人もいれば、将棋に興じる人もいて、まるでイエのリビングのようですよ。
——利用者の方々の笑顔が思い浮かびます。
あとは、なるべく部屋同士の間仕切りをなくし、ゆるやかなつながりが生まれるように間取りを工夫しています。キッチンで料理をしているとその音や香りが伝わるんです。そういう開かれた、オープンな造りがくつろぎを生み出しているんじゃないでしょうか。
利用者の方々にとってここは自宅ではありませんが、でも、暮らしがきちんとある。そういう場になっていると思いますし、そうありたいと願っています。
やはり、自分のペースで、自由にやりたいことができる、ということですね。それが利用者の方々の何よりの喜びになると思いますから。そういう個人、一人ひとりの自由が尊重される場であることは、この先もずっと保っていきたいですね。
——施設の開放的な造りも、利用者のみなさんに喜ばれていると聞きました。
開放感でいうと、道路側に設けてもらった大きな窓が効いていますね。日がたっぷりと差し込むことで、室内がとても明るくなりますし、今の時期だと大変温かさも感じられます。
窓が広いことで外の景色がよく見え、それが外とのつながりを生み出しているようにも思うんです。通りを人や車が行き来するため、施設の中には居るんですが、外とは遮断されていないというんでしょうか。以前よりも、外とのつながりが一段と感じられるようになりました。
——施設で働くスタッフにも良い影響が生まれそうです。
利用者の方々はもちろん、職員においても表情がいっそう明るくなったように思いますね。施設全体に活気が出ました。職員がのびのび、気持ちよく働けているかどうかは、利用者にも伝わりますからね。
移転前から通っていただいている利用者の中には、以前は週3くらいのペースだったのに、今では毎日来てくださっている方もいらっしゃいます。新しくなった施設が利用者の方々にとって日々の喜びや生きがいになっているのかと思うと、これまで以上に頑張っていきたいなと気持ちが新たになりますね。
デイサービス 茶の実
住所:宮崎県日南市南郷町潟上356-4
電話番号: 0987-64-1606
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House Producer
SAI建築社
設計チーフディレクター
三池 剛士
SAI建築社でCLTを使った構造体の研究開発をはじめて6年がたちました。デイサービス茶の実はその構造体「CLT CELL UNIT」を使用した純国産木の建築です。山口さんの故郷である宮崎、家族、そして事業を引継ぎデイサービスを新築する思いを聞き、どこにもない唯一無二の建築をつくろうと決めました。山口さんの温かい思いを表すような癒やしの時を感じれる木のにおいと、やわらかい光につつまれた空間が完成しました。 利用者様が温かくおだやかなひとときを感じれる場となることを心より願っております。
デイサービス茶の実様の動画も
Youtubeにて公開しております。
ぜひこちらももご覧くださいませ。
今回取材させていただいた
デイサービス茶の実さんの写真は
実例ギャラリーにてご覧いただけます。
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いつも弊社発行のフリーペーパー「SAIKURU」をご覧いただき誠にありがとうございます。2009年春に創刊した「SAIKURU」2023年の春で丸14年となりました。
スマートフォンやタブレットなどの利用も増え、情報の取得方法の変化にあわせ、今後のフリ ーペーパー版「SAIKURU」は168号で発行を終了し、前号169号よりWEBマガジン「SAIKURU」として、弊社のホームページにて引き続き公開していきます。
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ヌードルライター山田がススメる 今月の一杯
【宮崎県・宮崎市】重乃井(しげのい)
宮崎ならではの釜揚げうどんを
最古参店で味わって。
宮崎名物といえば、チキン南蛮、地鶏の炭火焼きなどなど、多種多彩。そんな中、やっぱり麺好きとして食べてほしいのが、釜揚げうどんです。釜揚げうどんは茹でた麺を冷水で締めることなく、そのまま味わう食べ方。締める工程が入らない分、麺自体の風味がそのまま、ダイレクトに楽しめるのが醍醐味です。
宮崎には釜揚げうどん文化が根付いていますが、中でも一番の老舗がこの「重乃井」。創業は1966年で、半世紀以上にわたり、宮崎のうどん文化を守ってきました。
そのルーツは香川にあるそうで、うどんは手打ちを信条としています。手仕事ゆえに、その日、その日で異なる温度や湿度を感じ取り、水分や打ち方をまさに職人の勘で微調整。茹で上がった出来立てのうどんはふわりとしたしなやかな食感がありながらも、ほどよいコシも感じられ、思わず笑みがこぼれる美味しさ。
うどんをざぶんと潜らせるつゆには昆布や節類に加えてシイタケを入れるのが特徴です。麺を食べ終えたら、茹で汁とともに麺が入っていた丼へとこのつゆを投入し、つゆを最後まで味わい尽くすのが重乃井流です。
必要以上のトッピングはなく、シンプルの極み。それだけに、小さな差が味の違いを生みます。重乃井のうどんは、そんな小さな差の積み重ね。一口食べれば、通いたくなるはずです。
DATA
【住所】宮崎市川原町8-19
【電話】0985-24-7367
【営業】11:00~18:45 ※売り切れ次第終了
【店休】金曜
【P】あり
山田祐一郎(KIJI ヌードルライター)
1978年生まれ。2003年よりライターとしてのキャリアをスタート。現在は日本で唯一(本人調べ)のヌードルライターとして、雑誌、ウェブマガジン、書籍などの原稿執筆に携わる。毎日新聞での麺コラム「つるつる道をゆく」をはじめ、連載多数。webマガジン「その一杯が食べたくて」は1日最高13,000アクセスを記録したことも。著書「うどんのはなし 福岡」「ヌードルライター秘蔵の一杯 福岡」。2017年スマホアプリ KIJI NOODLE SEARCHをリリース。未知なる麺との出会いを求め、近年では国内のみならず海外にも足を運ぶ。2019年より製麺所を営んでいた父の跡を継ぎ、「山田製麺」の代表に。執筆活動と並行し、製麺にも取り組む。
4コマ漫画
レッツゴーサイクル
ラブラドール犬のサイクルと建築士のケンちゃんが
繰り広げる微笑ましい暮らしぶりをお楽しみください。
【Kanac 】プロフィール
イラストレーター。Web漫画を描いたりwebサイトを作ったりしています。
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