ライフスタイルマガジン

vol.79?seq=406?seq=406?seq=406?seq=406?seq=406?seq=406?seq=406?seq=406

#コラム

SAIKURU Vol.176 「メッセージを打ち出す再生 この先の長崎観光の拠点に」

TOPページWEBMAGAZINE SAIKURUSAIKURU Vol.176 「メッセージを打ち出す再生 この先の長崎観光の拠点に」

SAI建築社が提案する
暮らしと住まいの新しいサイクル
と題して定期的にお届けしている
WEBマガジン「SAIKURU」

2023年4月よりWEBマガジンとして
リニューアルいたしました。

ぜひご一読下さいませ。

 

Case 176
【長崎県・諫早市】2023年10月1日オープン



 

メッセージを打ち出す再生
この先の長崎観光の拠点に

 


人の手を介して何かを生み出そうとするとき、そこには作り手の「人となり」が備わります。
豪快な性格の職人が作る家具には力強さが、細やかな性格の農家が育てる野菜にはやさしさが感じられるものです。

長崎県・諫早市にある蔵元「杵の川」が酒づくりに掲げたのは、「良か人と良か酒を育む酒蔵」というキャッチフレーズでした。

「杵の川」の土台になっているのが、1839年に長崎県東彼杵町で創業した清酒恵美福醸造元「丁子屋醸造」。その後、長崎、佐賀にあった3つの蔵との合併・営業権譲渡を経て、現在に至ります。

「良か人と良か酒を育む酒蔵」という言葉は、そんな歴史の中で、自分たちがどんな酒を作っていきたいか、どんな人に届けたいかを今一度、見直した結果、生まれたものです。

10月1日、そんな「杵の川」の敷地内にある工場兼倉庫が大規模リニューアル。その根底にあるのも、「良か人と良か酒を育む酒蔵」であり続けたいと願う、強い思いでした。

リニューアルにまつわる経緯を代表取締役である瀬頭信介さん、社長室室長であり、自社のデザインを統括する江口正和さんに伺います。
 


 

よか人が集まれば
よか場所になる

———工場の改修は以前から計画があったのですか。

江口さん「元々、この建物は瓶詰めの工場兼倉庫だったんです。ただ、築年数が50年を越えて、老朽化が懸案事項としてありました。また、同様にギャラリーとして活用していた事務所側の建物についても、年月を重ねる中でその役目を果たすには不十分だと感じていました」

瀬頭さん「それで工場のリノベーションをいよいよ実行に移そうという話になったんです。ただ、そのリノベーションに先駆けて、インナーブランディングを実施しました。弊社のこれまでの歩みの中で、長崎・佐賀の酒蔵4社が合併したという背景がありまして。4社がそれぞれに自社でブランディングしていたので、それらが合わさった結果、少しちぐはぐな印象になっていました。それを私の旗振りのもとでやり直した過程があり、そこが今回の工場リノベーションへとつながっています」


———工場の再生は、ブランディングの集大成ということになるのでしょうか。

瀬頭さん「そうですね。コロナ禍を経て、この先の時代をしっかりと歩んでいける蔵元になるために必要な再生だと考えています。インナーブランディングの時より、京都のブランディング企業『シュンビン』さんにお手伝いいただいてきた背景があり、今回の工場リノベーションについても引き続き、シュンビンさんにアドバイスいただいています。SAI建築社さんは過去にシュンビンさんとともに酒蔵の再生に携わってこられたと聞いていましたので、安心して施工をお任せできました」

 

———生まれ変わった工場兼倉庫には、杵の川蔵元ファクトリー「よかよか」というネーミングが付けられました。どのような思いが込められているのでしょうか。

江口さん「この『よかよか』には、私たちの蔵が掲げた『良か人と良か酒を育む酒蔵』というキャッチフレーズが根底にあります。よか人、そしてよか酒。人に覚えてもらいやすく、その上で杵の川らしさがあると思っています。よか人とは良い人のことで、そういう良い人が集まれば、ここが“よか場所”になっていく。よかよかという響きにはおおらかさも感じられ、“よか”という言葉を繰り返すことで、上がっていく感じも演出できるかなと考えました」

 

———新しい「よかよか」はどのような場所になったのですか。

瀬頭さん「弊社の酒を取り揃えた直売コーナー、ゆっくりと試飲できるBARコーナー、そして蔵元の歴史を紹介するギャラリーであり、自社以外で製造された酒に合う食料品の販売コーナーという4つの側面を併せ持った場所になっています。この場所が担う要素は多いのですが、元々の敷地の広さが手伝って、空間的には窮屈になっていないと思っています」
 





改装前の写真
 


 

 
 





改装前の写真


———確かにこの広大なスペースがあるからこそ、4つの要素が混在していても、すっきりとした印象になっていますね。リノベーションをする上で最も大切にされたことは。


瀬頭さん「何を求め、何を付与するか。その軸をしっかりと確認した上で、この工場に元々備わっていたものを生かすことを考えました。あるものを生かした上で、新しい価値を与えたい。そう考えた時、長年に渡って工場兼倉庫の建物を支えてきた鉄骨や床には手を入れないでおこうという方向性で話が進んでいったんです。いずれも古くはなっていましたが、丁寧に清掃することで、また何十年も働いてくれそうな表情になりました」
 


 




改装前の写真


江口さん「歴史のある蔵元というと木造建築を想像する方も多いかもしれません。ただ、弊社は耐久面を重んじ、県下でいち早く鉄筋の倉庫を建造したこともあり、その結果、今、味わいのある建物として現存している背景があります。そんな歴史があるため、鉄骨や床といった土台はそのままに、随所に照明とそのフレーム、商品の陳列棚、ディスプレイボード、直売コーナーとBARコーナーの境界にガラス壁を作ってもらっています」


———元々あった土台に、新しい息吹が注がれたような印象を受けます。新旧が調和した場所になりましたね。

瀬頭さん「例えば直売コーナーではSAIさんの協力のもと、古くなって使わなくなっていた酒樽を活用して棚にしてもらっています。使い込まれた樽の風合いが見事にこの場に合っていて、手前味噌ですが、とても気に入っています。また、同様に現在は使われていない甕や徳利も空間のアクセントとして飾ることにしました。昔はこういうもので酒を売っていたんですよ、といった歴史をお話できるきっかけにもなるので、きっと甕や徳利も喜んでいると思いますよ」
 



 

 


 

役目を終えたものへの感謝を
新たな色に乗せて吹き込む


———元々あったといえば、なんといってもこの巨大な重機が目を引きます。

瀬頭さん「これは洗瓶機といって、瓶を洗うための機械なんです。使わなくなって結構、月日が経つんですが、ずっと工場の奥の方にそのまま置かれていました。工場をリノベーションするという話が出た際、洗瓶機もついに処分する時が来てしまったかと思っていたんですが、シュンビンの空間建築デザイン分野担当である槌野さんから『やっぱりもったいない』という助言をいただき、モニュメントとして残すことにしました」


江口さん「ただ残すだけでは新しく生まれ変わった『よかよか』の中で浮いてしまうと考え、全塗装することになったんです。その中で槌野さんから黄色はどうかという提案がありました。なかなか奇抜な色だということもあり、当初は社内でもいろいろな声が上がってきましたが、検討を重ねた上で、最終的に黄色を選びました。結果として本当にこの色にしてよかったですね。

きっと元のモスグリーンのままだと、存在が空間の中で埋もれてしまっていたと思うんです。洗瓶機としての役目を終えたことへの感謝、そして、ここにあったことを知ってほしい、このイエローカラーはそんな思いも伝えられるのではないかと考えています。イエローにしたことで、生命が再び宿ったかのような、そんなパワーが感じられるんです。また、全塗装に加え、ボディが浮かび上がるよう、照明を仕込んでもらっています。ライトアップされた様子にも手前味噌ながら惚れ惚れしてしまいます」


———この洗瓶機モニュメントが直売所からBARエリアにわたって鎮座してある様子は迫力がありますね。

江口さん「建物のシャッターを取り外してガラス窓に変更しているので、外からでもこの洗瓶機の様子がちらりと見えるようになっています。なんだろうと思ってもらえると嬉しいですね」
 


瀬頭さん「私個人的にはBARエリアで洗瓶機を前にして試飲してもらえるのが刺激的ではないかと思っています。おかげさまで素晴らしい空間が創出できました。これまでコロナ禍にあって蔵開きができていなかったのですが、いざ、人が集まるときに、その受け入れ体制が整っていないことがずっと悩みのたねでした。

以前は蔵開きとなると5000〜6000人のお客様に集まっていただいていたんです。それなのにテーブルが2つくらいで、とにかく人が集まれるような環境ではありませんでした。これからはそんな大人数の方が訪れても余裕をもってお迎えができます。また、これだけの広さですから、雨天でも利用できるのは本当に安心ですね」
 



江口さん「カウンターは大人10人が並んでも、ゆったりと利用できるように長さを設定しました。モニュメントだけでなく、カウンターバーにも天板下に間接照明を取り入れてあり、お酒を飲むシーンをドラマティックに演出しています」
 

 

新しい「よかよか」を
観光の“ハブ”にしたい


———杵の川蔵元ファクトリー「よかよか」は10月1日にお披露目となりますが、今後の展望は。


瀬頭さん「昨年9月23日に西九州新幹線が開業されて1年くらいが経ちました。九州各地から長崎方面へと向かう流れが強まった中で、ちょうど長崎の県央にあたる諫早という都市のポテンシャルを実感する機会が増えました。

長崎へ、そして島原方面へと観光する際、この諫早はまさに“ハブ(拠点)”になれる場所です。そんな諫早の地で、この地に根ざし、ここでしかできない酒づくりを続けることの意味もこれまで以上に感じています。そんな中で、自慢の酒をしっかりと販売、試飲できる場ができたことで、長崎の観光における旅の拠点としてどんどん活用してもらいたいと願っています」


 

酒蔵 杵の川
住 所:諫早市土師野尾町17番地4
連絡先:Tel. 0957-22-5600
ホームページはこちらをタップ

 

 

House Producer

リノベーション事業部
森田 大貴

工場奥の巨大な洗瓶機を展示場に移動するのは非常に困難で、そのために「家曳き」と呼ばれる建物を移動する専門の職人さんの協力が必要でした。多くの人々が力を合わせ、工場と倉庫の雰囲気を保ちつつ、新しい酒蔵が出来上がりました。ぜひ長崎を訪れる際は行ってみてください。

 

今回取材させていただいた
酒蔵 杵の川 様の写真は
実例ギャラリーにてご覧いただけます。
こちらをタップ

 

前号 vol.175をご覧いただくには
こちらをタップ

 

フリーペーパー版「SAIKURU」は
WEBマガジンでさらに進化!!

 
いつも弊社発行のフリーペーパー「SAIKURU」をご覧いただき誠にありがとうございます。2009年春に創刊した「SAIKURU」2023年の春で丸14年となりました。

スマートフォンやタブレットなどの利用も増え、情報の取得方法の変化にあわせ、今後のフリ ーペーパー版「SAIKURU」は168号で発行を終了し、前号169号よりWEBマガジン「SAIKURU」として、弊社のホームページにて引き続き公開していきます。


WEBマガジン化にあわせ
SAI建築社の「LINE公式アカウント」を
公開いたしました。


WEBマガジン「SAIKURU」の発行のお知らせや、新しい施工写真などの公開のお知らせがすぐ皆様に届くよう、「LINE公式アカウント」も公開しました。ぜひご登録をよろしくお願いい たします。

友だち追加

 


お問い合わせは
こちらをタップ

株式会社SAI建築社
・フリーダイヤル:
 0120-313148
(サイサイシアワセ)
・Tel :092-874-7385
・Fax:092-874-7386

 

資料請求は
いつでも気軽に!
こちらをタップ

 

ヌードルライター山田がススめる
今月の一杯

 

【長崎県・大村市】カラテチョップ

地元の野菜、ハーブをふんだんに。
わざわざ行きたい大村のベトナム。

初めて「カラテチョップ」を訪れたのは機内誌の取材でした。その取材のテーマは移住。実は店主・土井さんご夫婦は元々、東京・下北沢で同名の店を営んでいたのです。


移住のきっかけを尋ねた際、土井さんは「東日本大震災のこともあって移住したいという気持ちが芽生えました。ただ、もちろんそれだけが理由ではありません。東京だとどうしても家賃や光熱費の負担が大きかったり、食材の選択肢が限られていたり、日々、追われるように仕事をしていました。そんな環境を変えたかったという思いも強かったんです」と教えてくれました。



だからでしょうか。下北沢時代の土井さんのことを知っているわけではありませんが、今、目の前にいる彼のその表情はとても穏やかで、やさしいオーラに包まれているように感じました。
少し前に久しぶりに訪れた「カラテチョップ」は数年前と変わらない佇まい。店に入ると原色がパッと目に飛び込んでくるポップな内装は当時のままでした。
 



注文したのは鶏肉のフォーとベトナムカレーのセット。鶏ガラや牛骨、香味野菜でとった出汁をベースに調味したスープは一口目こそ、やや物足りないかなと思うものの、ところがそこからスープの旨味が口の中にどんどん蓄積されていき、尻上がりに調子を上げていきます。これはやっぱりベースの出汁がしっかりしているからでしょうね。米粉麺のもっちりした食感も秀逸。辛い薬味やライムを搾りつつ、一気に完食しました。



ベトナムカレーのおいしさにも感激。こちらはココナッツミルクの甘みがアクセントになっていて、クセになります。
土井さんによれば、大村は食材が豊かで、特にベトナム料理の要となる野菜、ハーブは味、鮮度ともに良好。恵まれた地元産野菜をふんだんに料理に使えることで、下北沢時代よりも味が向上したそうです。


食後にはすっかり心も胃袋も満たされました。わざわざでも出掛けたい。そんな大村のベトナムがここにありました。


【住所】長崎県大村市松並2-1187-1
【電話】0957-54-7688
【営業】11:30~15:00
【店休】木曜
【P】あり
【HP】https://karatechop.jimdo.com/

※コロナ禍で営業時間、定休日に変更がある場合があります

 

山田祐一郎(KIJI ヌードルライター)

1978年生まれ。2003年よりライターとしてのキャリアをスタート。現在は日本で唯一(本人調べ)のヌードルライターとして、雑誌、ウェブマガジン、書籍などの原稿執筆に携わる。毎日新聞での麺コラム「つるつる道をゆく」をはじめ、連載多数。webマガジン「その一杯が食べたくて」は1日最高13,000アクセスを記録したことも。著書「うどんのはなし 福岡」「ヌードルライター秘蔵の一杯 福岡」。2017年スマホアプリ KIJI NOODLE SEARCHをリリース。未知なる麺との出会いを求め、近年では国内のみならず海外にも足を運ぶ。2019年より製麺所を営んでいた父の跡を継ぎ、「山田製麺」の代表に。執筆活動と並行し、製麺にも取り組む。

 

4コママンガ
レッツゴーサイクル

ラブラドール犬のサイクルと建築士のケンちゃんが
繰り広げる微笑ましい暮らしぶりをお楽しみください。


 

【Kanac 】プロフィール
イラストレーター。Web漫画を描いたりwebサイトを作ったりしています。
Instagramはこちらをタップ

 

WEB MAGAZINE SAIKURU